研究紹介 松井淳先生 「新たな原理に基づく高分子配向薄膜の作製に成功」

松井淳先生の研究成果がプレスリリースされました(令和3年5月)

新たな原理に基づく高分子配向薄膜の作製に成功

~ガス分離膜、水浄化膜への応用に期待~

【本件のポイント】 
● 生体膜と同様な構造を示す高分子膜(※1)を簡便に作製
● 高分子1本に存在する親水的な部位と疎水的な部位に働く相分離(※2)を用いることで、ラメラ構造(※3)を自己組織的に構築することに成功。
● 生体膜と同様に高密度、高配向した高分子膜であるため、ガス分離膜や水浄化膜への応用が可能。


【概要】

人口の爆発的な増加で生じる環境問題が懸念される中、飲用可能な水の確保や、CO2の大幅削減(カーボンニュートラル)に向け様々な研究が進められています。その中で、海水から塩をろ過により分離したり、大気中のCO2を膜により分離することができれば、プロセスが非常に簡単になり省エネルギーにつながります。そのためには、水浄化やガス分離が可能な高機能性膜の開発が望まれます。このような高機能性膜の代表例に、生体に存在する脂質二分子膜と呼ばれる生体膜があります。生体膜は分子が密に詰まって一方向に配向したラメラ構造を形成します。

山形大学松井淳教授らの研究グループは、ドデシルアクリルアミドとビニルリン酸からなるランダム共重合体(※4)を60˚Cで加熱するという単純な手法により、生体膜に見られるラメラ構造へと自己組織化することを発見しました。さらに、リン酸と反応して正と負のイオン対を形成するイミダゾール分子を加えたところ、室温においても、ラメラ構造を形成することを見いだしました。このようなラメラ構造は、ひも状の高分子主鎖とその主鎖から伸びた側鎖との相分離力により形成されることを明らかにしました(図1)。

得られた高分子薄膜は生体膜と同様の配向、配列構造を有するため、水浄化やガス分離といった高機能性膜への展開が期待できます。今後、膜の耐久性や、透過する化合物の選択性を高めることで、SDGsの目標である「6.安全な水とトイレを世界中に」、「7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の達成への貢献が期待されます。

本成果は、米国化学会の雑誌であるLangmuir誌のオンライン版に2021年4月22日(米国時間)に掲載されたとともに、当該号のSupplementary Coverに選出され掲載されました(Supplementary Coverは5月4日(米国時間)に掲載)。


【研究の背景】

従来、脂質二分子膜と同様なラメラ構造を示す高分子膜の作製法は、結晶化を利用するものがありました。しかしながら、結晶化を用いると硬くもろい膜となってしまいます。サランラップのような柔軟性があるラメラ膜を作製する方法として、気液界面を使用するLangmuir-Blodgett膜と呼ばれる膜や、特殊な構造を示すブロックコポリマーを用いる方法がありました。しかしながら、前者は特殊な装置を使用する必要があることや、作製に時間がかかること、また後者は精密な化学合成が必要などといった問題点がありました。


【研究手法・研究成果】

これまで研究グループでは、接着剤にも使われるアルキルアクリルアミド系やアルキルアクリレート系の汎用高分子材料を加湿下で熱処理すると、高度に配向したラメラ構造が形成されることを見いだしていました。さらに、その形成メカニズムとして、水が吸着した高分子主鎖とアルキル側鎖との相分離であることを明らかにしていました。

そこで今回、研究グループでは、外部から水を加えるのではなくあらかじめ高分子鎖内に親水性のモノマーであるビニルリン酸をランダム共重合により導入することで、単に60˚Cで熱処理するだけでラメラ構造を形成させることに成功しました(図1)。これは、親水性のビニルリン酸が主鎖付近に存在することで、側鎖との相分離力が増強したためと結論づけました。そこで、さらに相分離力を高める工夫として塩基であるイミダゾールを加えたところ、室温においても高度に配向したラメラ構造を形成することがわかりました。これは、酸であるリン酸と塩基であるイミダゾールが反応し、イオン対を形成したためです。より親水性の高いイオン対の形成により、疎水性のアルキル側鎖との相分離力がさらに増強された結果、室温においても高度なラメラ構造を形成したことがわかりました。

得られた高分子薄膜は結晶性を示さないため柔らかく生体膜と同様の配向、配列構造を有するため、水浄化やガス分離といった高機能性膜への展開が期待できます。今後、膜の耐久性や、透過する化合物の選択性を高めることで、SDGsの目標である「6.安全な水とトイレを世界中に」、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の達成への貢献が期待されます。

本成果は、米国化学会の雑誌であるLangmuir誌のオンライン版に2021年4月22日(米国時間)に掲載されたとともに、当該号のSupplementary Coverに選出され掲載されました(Supplementary Coverは5月4日(米国時間)に掲載)。

図1 用いた化合物の構造とその自己組織化機構


※用語解説 

1.高分子膜:サランラップのようなプラスチックで出来たフィルムのこと2.相分離:水と油のように混じり合わない状態のこと。

3.ラメラ構造:タマネギの皮のように層状に重なった構造のこと。生体膜は分子レベルの厚さの膜が2層重なったラメラ構造を形成している。

4.ランダム共重合体:二つの分子が規則性なくランダムに結合して形成される高分子


【論文情報】

【著 者 名】Ayaka Niinuma, Mayu Tsukamoto, Jun Matsui*

【論文題名】Self-Assembled Lamellar Films of Comb-Shaped Copolymers by Segregation between Hydrophobic Side Chains and the Main Chain with Hydrophilic Comonomers

【掲載論文】Langmuir

【DOI】10.1021/acs.langmuir.1c00624

【付記】

本研究は科学研究費基盤研究B( 18H02026)、カシオ科学振興財団、フジシール財団、物質・デバイス領域共同研究拠点」の共同研究プログラムの支援を受けて行われました。


お問い合わせ

学術研究院 教授 松井 淳((機能高分子材料/理学部主担当)

メール:jun_m@sci.kj.yamagata-u.ac.jp

山形大学カーボンニュートラル研究センター(準備会)

山形大学カーボンニュートラル研究センター設立に向けた準備会のウェブページです

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